2次予選通過者発表

【1日目】

  • 65 阪田 知樹 日本
  • 76 内匠 慧 日本 ○
  • 11 アシュレイ フリップ Ashley FRIPP イギリス ○
  • 56 オシプ ニキフォロフ Osip NIKIFOROV ロシア ○
  • 48 ロマン マルチノフ Roman MARTYNOV ロシア ○

【2日目】

  • 78 アンナ ツィブラエワ Anna TCYBULEVA ロシア
  • 61 イリヤ ラシュコフスキー Ilya RASHKOVSKIY ロシア ○
  • 33 キム ジュン KIM Joon 韓国 ○

【3日目】

  • 26 實川 風 日本
  • 55 中桐 望 日本 △
  • 67 佐藤 卓史 日本 ○
  • 72 ソ ヒョンミン SUH Hyung-Min 韓国 ○

(○,△は私がよいと思ったとして挙げた人)

挙げなかった人は3人だけなので、まあまあというところか。今回はいつもに比べて「あっと驚く」ような審査は少なくなっているような気がする(日本人にはちょっと甘い気もするが…)。これも海老彰子審査委員長のおかげか。中村紘子のときは結構、(特定の人をプロデュースしようとする)「思惑」が透けて見えるような審査が多くてイヤな思いをしたものだが。いっそのこと、コンテスタント集めは中村紘子、審査は海老彰子、と分担してやってもらえるとよいのだが(笑)。

あと海老彰子になってよかったのは演奏中に決して鈴を鳴らさないこと。これまでは時間オーバーしそうなときはいつ鳴らされるかと気が気でないことが多かった(よい演奏のときは特に)が、今回は最後まで安心して聴ける。

2次予選3日目を聴き終えて

よいと思ったのは

  • 77 アレクセイ タルタコフスキー Alexei TARTAKOVSKI アメリ
  • 67 佐藤 卓史 日本
  • 92 チュウ ハオ ZHU Hao 中国
  • 72 ソ ヒョンミン SUH Hyung-Min 韓国

次点で

  • 55 中桐 望 日本

3日間合わせると、2次で挙げた人は13人(1日目:5人、2日目:3人、3日目:5人)。3次は12人なので、全員がこの中から選ばれてくれれば万々歳だが…そうは問屋が卸さないだろうな(笑)。

2次予選3日目(その2)

  • 77 アレクセイ タルタコフスキー Alexei TARTAKOVSKI アメリ

Chopin 10-8はオーソドックスだが悪くない。3番ソナタも、冒頭ちょっと硬かったがすぐに調子が出てきた。すっきりと端正な表現で音が美しい。緩徐部分も甘い音色でよく歌っている(しかし過剰にならない)。終楽章では部分部分でテンポを変えるのは賛成できないが、それ以外はよかった。最後のRachmaninovも美音で聴かせていた。

  • 67 佐藤 卓史 日本

Bergは結構メリハリが激しく、真面目さだけではないようだ。委嘱作品も気のせいか吹っ切れた感じでノリがよく、(1次であんなこを書いたからではないだろうが)攻めの姿勢が見える。Chopin 10-1は音コンでも弾いた得意曲(ショパコンで弾いたかな)だけあって手馴れたもの。流れるよう。最後のSchumannは実川君よりよく表現のツボを押さえており、さすが年の功というか、年季が入っている。全体にテンポがよく、流れが沈滞しない。中盤からは一気呵成という感じでグイグイと攻めていく。このシンフォニックエチュードはなかなかの名演であった。

  • 92 チュウ ハオ ZHU Hao 中国

Chopin 10-8はTartakovskiよりさらに滑らかで上手い。最後にミスったのは愛嬌か。バラ3もうまく盛り上げていた。Lisztの超絶8番も出だしはちょっと力みがあったが、後は好調。スケールが大きく、ミスはちょこちょこあったが難所の跳躍部分も速いテンポにもかかわらずほとんどノーミス。1次のときもそうだったが、全体的に非常に筋のよいピアニストという感じである。

  • 72 ソ ヒョンミン SUH Hyung-Min 韓国

Lisztの回想は音がクリーミー。続いて今回何回目かのスケ3だが、主題の力感、スピード感があってこれもよい。欲を言えば中間部のスダレはもっとデリケートにやってほしいけど(彼のは健康的)。Ravelもテクは十分に魅せた。打鍵、テンポが(韓国人らしく?)ちょっとアグレッシブ過ぎる気もして、もう少し上品な表現も織り交ぜるとよいと思ったが(多少うるさく感じることもある)、最後は十分に盛り上げていた。

2次予選3日目(その1)

演奏曲目はこちらを参照。

  • 30 スタ二スラフ フリステンコ Stanislav KHRISTENKO ロシア

Scriabinの42-5は音が少し団子になっており、響きをもう少し整理したい。Chopinのロンドは右手の細かい動きが軽やかで、いかにも達者。でももう少し左手のリズムを強調してもよい気がする。メインのRachmaninovソナタも暖色系の音色で音に丸みがあるが(この曲に限らず)、ときにはエッジの立った音もほしいところ。全体としてもう一つ決め手を欠く感じ、というか1次のときの期待からすると平凡でやや期待外れであった。

  • 26 實川 風 日本

Chopin 10-9は手堅いがもう少し細かく表情や変化をつけてもよいか。彼はそういうことに関してはちょっと淡泊なようである。メインのSchumannも微妙というか物足りない。表現の細かいところでの詰めが甘いし、変奏ごとのメリハリにもやや欠ける。この曲を弾くなら何か主張、こだわりのようなものを聴きたかった。彼は今年の音コンでこれを弾いたそうだが、今日の演奏を聴くと、本選に進めなかったのもわからないでもない。

  • 55 中桐 望 日本

Rachmaninov 39-8は(それほどのメカの強さを要しないので)彼女に合った曲。続くDebussy前奏曲も(苦手曲であまり詳しくないが)彼女の資質に合っていそう。メインのダンテは出だしの音はまずまずで安心。(ここの音が悪いとあと聴く気が失せる。)その後も音が充実し、緩徐部分での音色も美しい。大好きな曲ということもあって、何度もゾクゾクとしてしまった。本人のインタビューを読むと2次に進めるとは思っていなかったそうだが(私も)、好きな曲でよい演奏を聴かせてくれてありがとうという感じである。

  • 85 シュ ガ−フイ XU Gehui 中国

鬼火は多少ごまかしっぽく聴こえるところもあって、精度の点では微妙だったか。失敗というほどではないが心証を良くする方向にはいかなかった。夜のガスパールも、オンディーヌはメカが冴えていたが、スカルボは今ひとつ。もう少し針の先でつついたような繊細な音がほしいところ。最後のハン狂2はまずまず盛り返したが、ただフリスカはもっと派手に暴れてもよかった気がする。ちょっとおとなしかった。

2次予選2日目を聴き終えて

よいと思ったのは

  • 61 イリヤ ラシュコフスキー Ilya RASHKOVSKIY ロシア
  • 33 キム ジュン KIM Joon 韓国

の2人がダントツ。次点で

  • 58 ドミートリ オニシチェンコ Dmitry ONISHCHENKO ウクライナ

といったところ。結局1次で○か△をつけた人であった。
上の2人はこの後変調がなければファイナル進出は固そうな雰囲気。Kimは29歳なのに今まで大きなコンクールの入賞歴がないのが不思議なくらいだった。

2次予選2日目(その2)

  • 58 ドミートリ オニシチェンコ Dmitry ONISHCHENKO ウクライナ

Shostakovichは(いつものように)リラックスした音だが悪くはない。Lisztも片田さんに比べると余裕があるように聴こえる。(実はこの時間帯、睡魔と闘っていたのであまりよく覚えていない。)最後のLisztも安定はしていたが、聴かせるための手練手管という点では1次のKhristenkoの方がよかったかな。年齢の割には意外と素直(?)な解釈。それにしても、前回も2次でこの曲を弾いており(1次のMozart K310も)、あまり新レパートリーの開拓をしていないのかな。

  • 88 ユ スルギ YOO Seul-Ki 韓国

Ligetiはなかなかよかった。Ravelもまずまずだが音にもっと輝くような煌めきがあればよかった。強音でちょっとひっぱたくような音になりがち。Schumannは全体的に今ひとつパッとしなかった。指回りがピリっとしない変奏が結構あるし、やはり強音での音の魅力に欠ける感じがする(あまり美しく響かない)。フィナーレはちょっと急ぎすぎの印象。

  • 2 ジェラルド アイモンチェ Gerard AIMONTCHE ロシア

最初はChopinの英ポロだったが、これがまたえらく肩の力が抜けた演奏。主題を最初は弱音で弾くという斬新(?)な解釈だったが、でも違うだろーと思ってしまった。次の25-5もちょっとヘンテコな感覚。スケ4はこの中では一番まともだったが、でも相変わらず肩の力が抜けている。脱力もここまでくるとやり過ぎという感じがした。

  • 33 キム ジュン KIM Joon 韓国

Chopin 25-4はくっきりした音が印象的。Ligetiも躍動感があるというか、ノリがよい。道化師もリズムにキレがあり、同音連打も上手い。そして何より明るい音が曲によくマッチしている。最後のLisztもやはり正統派、王道をいく演奏で、Rashkovskiyと同様、三拍子(音、テク、センス)揃っている。Rashkovskiyのライバル出現、という感じである。

2次予選2日目(その1)

演奏曲目はこちらを参照。

  • 78 アンナ ツィブラエワ Anna TCYBULEVA ロシア

Lisztの軽やかさはしっとりした音で、レガートを美しく聴かせることを重視した演奏。完成度が高い。一方Mendelssohnの厳バリは丁寧だが変奏ごとの変化がもう少しほしい感じ。音色がすべて同じである。Chopinもそれほど悪くないが、もう少しポロネーズのリズムをはっきりさせた方がよいのでないか。Mendelssohnがちょっと退屈だったのも、リズムのメリハリが今ひとつだったからかもしれない。喜びの島もフォルテ和音があまりきれいに響いておらず、もう一つの印象。

  • 16 ハン ジウォン HAN Ji-Won 韓国

Bergのソナタは昨日のMartynovのような面白さは感じなかったが、これはまあ当然か。いつものように長く感じた。Chopinの25-10はメカニックはまあまあだが、私の感覚からすると中間部はちょっとテンポを落とし過ぎ。最後のFranckは、たまに耳障りな音を出すことはあるけど、曲の雰囲気は掴んでおり、これまでの演奏からするとちょっと見直した。次も聴きたいかといわれると微妙だが。

  • 27 片田 愛理 日本

エチュードはChopin, Lisztとも丁寧にうまくまとめている。(Lisztは小さなミスはあったが。)ただChopin幻想曲は(どこがどうとは言えないが)なぜか胸に響かない。もしかしたら彼女とは相性が悪いのかもしれない。最後のShostakovichは丁寧という印象。

  • 61 イリヤ ラシュコフスキー Ilya RASHKOVSKIY ロシア

1次は優しい曲を並べていたため、やっと実力がわかるプログラムとなった。Chopinバラ2は出だしから音で魅了。王道をいくような正統派の演奏といった感じ。続く2曲のエチュードもケチをつけるところはほとんど見当たらない。最後のRachmaninovも、終楽章の出だしのところはもう少しスピード感を出してほしい気はしたが、非常に良い。全体として音の美しさ、テクニック(メカニック)、音楽センス(歌心)と三拍子揃ったピアニストで、順当に行けばやはり彼が今回の優勝候補なのだろうという気がした。というかもし彼が18歳以下で、他にめぼしいコンクール歴がなく、審査委員長が中村紘子だったら優勝は固いというところだ(笑)。

2次予選1日目を聴き終えて

よかったと思うのは以下の5人。

  • 9 アンナ ドミトレンコ Anna DOMYTRENKO アメリ
  • 76 内匠 慧 日本
  • 11 アシュレイ フリップ Ashley FRIPP イギリス
  • 56 オシプ ニキフォロフ Osip NIKIFOROV ロシア
  • 48 ロマン マルチノフ Roman MARTYNOV ロシア

3次進出は平均で4人/日なので、それを思うとなかなかの割合かもしれない。

2次予選1日目(その2)

  • 84 シエ ジンチュエン XIE Jingquan 中国

Chopinエチュードは(1次のときも思ったが)ペダルワークがいまいちなのか音がこもってヌケがよくない。また途中ちょっと崩壊気味だった。Schumannは音色は悪くないけど緩急の面で歌心があまり感じられず、メインのShostakovichも冒頭部分の音ヌケが悪さが気になる。彼女は1次無印組だが、残念ながら2次で見直すということにはならなかった。

Mendelssohnのロンカプは1次で見せたような繊細なタッチが印象的。細かい部分の表現の完成度が高い。Chopinの10-2も右手があくまで繊細。ちょっとミスはあったが音楽的である。Scriabinの8-12も音がよく響いて力強い。最後の夜のガスパールも、オンディーヌ出だしのデリケートなタッチが素晴らしく、スカルボも生で聴いた演奏としてはかなりの出来。良い演奏を聴かせてもらったという感じである。1次もそうだったが、全体として彼は繊細なタッチが特長と言えそう。(スカルボは後でVODで聴くと結構ミスが多かった。細かいところはホールだとあまりよく聴こえないので脳内補正してしまうが。)

  • 66 佐野 主聞 日本

エチュード2曲から開始だが、これがいずれも今ひとつで印象を悪くしてしまった。Chopin 10-1は右手の粒立ちもう少しよくしたいところだし、Rachmaninov 39-5は力感、重厚感が不足し、動きもちょっとモッサリしている。彼は1次も技巧的な曲を弾かなかったが、ここにきてメカの弱さがバレてしまった感じである。メインのChopin幻想曲も音色や解釈の方向性はよいのだけど、技術的制約からか盛り上がる部分でもあまり加速できず畳み掛けが不足している感じだった。

  • 48 ロマン マルチノフ Roman MARTYNOV ロシア

Chopin舟歌は、昨日の佐藤君もこの半分くらいでも歌っては、というくらい起伏が大きくよく歌う演奏。ちょっとやり過ぎてChopinというよりロシア音楽になってしまっているかも。でも面白い。続くBergもどこかロシア風。表現の振幅が大きく、コントスラストも激しい。しかもポリフォニックな面でも立体的。この曲も昔からの苦手曲だが、こんなに面白く聴けたのは初めてかも。(ひょとしてこれが開眼のきっかけになったりして。)エチュード系のChopin 10-2も靄のかかったような雰囲気の表現がかなり個性的で、日本人でこんな風に弾く人はまずいなさそう(多分先生が許さない)。Scriabin 8-9もすごくメリハリがきいている。全体として、今回の個性派No.1は彼かもしれない。

2次予選1日目(その1)

演奏曲目はこちらを参照。

  • 65 阪田 知樹 日本

最初の委嘱作品は、予想通り私の苦手な無拍子系の現代曲。以降コメントはほとんどしない(出来ない)が、彼の演奏はちょっと音のヌケがよくない気がした。エチュードのChopinはまずまず無難な出来。Rachmaninovは力強く若々しい。中間部はもう少し変化をつけるなど押すだけでなく「引く」ところもあるとさらによいか。最後のLisztは1次のKhristenkoのような手練手管はないが、これも荒削りながら若々しい。

  • 9 アンナ ドミトレンコ Anna DOMYTRENKO アメリ

委嘱作品は、これも印象ではあるが阪田君より音が立っている感じがする。(音響のコントロールは彼女の方が上?)続くLisztのパガ変はスケールが大きく、表現の幅も広い。単にキチンと弾けましたというようなお嬢様芸になっていないのは(当然とは言え)さすが。最後のRachmaninovコレッリは苦手曲だが、彼女のメリハリのある表現のおかげで飽きることなく聴くことができた。ダイナミックレンジなど表現の幅が広く、音色や響きもよく考えられている。

  • 76 内匠 慧 日本

Liszt, Chopinの小品で軽く肩慣らし(?)の後、エチュードのChopin, Ligetiはまずまずの出来(Chopinはホールだと響きが多くて細かい部分がよく聴き取れなかったけど)。そして近代物はこれまたRachmaninovコレッリ。(ちなみに出身校も両者とも同じ英国王立音楽院。)しかしこの演奏もよかった。男性的な深々とした響きがあり、特に鋭い音やキレのある動きは彼の方がさらによかったかも。

  • 11 アシュレイ フリップ Ashley FRIPP イギリス

Debussyの反復音エチュードはまずまず。Rachmaninov前奏曲もスケール感、ダイナミックさなど曲の雰囲気をよく掴んでいる。メインディッシュのBrahmsはやはり苦手曲だけど暖色系の柔らかい音質が曲とマッチして、また曲によっては力強い表現もあり、雰囲気は悪くなさそう。全体的に、地味によい音楽家という印象である。